学光Vol.9 冬号(一般公開用)
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5結びにかえて「国際経済」と「グローバル経済」の二つのレベルと観点で複眼的に経済を観察すれば、新たな国際経済像、グローバル経済像を描くことが可能となります。この二つの次元における観察と考察は、より複雑な現代のグローバル経済社会の理解に役立つと思われます。国際経済論の学びに活用されることを期待しています。10出所:筆者の作成による性を比較したものが表1です。「国際経済」においては、「国民国家」と主な経済活動の拠点を国の領域内に置く企業の利益は一致します。他方「グローバル経済」においては、企業は国境を越えて生産のネットワークを拡充するため、国益と多国籍化した企業の利益は必ずしも一致しなくなります。産業の海外移転と国内雇用機会の海外への流出や個人や企業の租税回避行動が例として挙げられます。またGAFAMといわれるグローバルな情報・通信のプラットフォームの影響力の拡大や外国企業による国内の枢要な企業の買収等は、国家から見ると国家の安全保障の基盤を揺るがす脅威となります。さらに、国家の規制の枠を超えたグローバルな金融・資本市場の膨張は、世界金融危機と実体経済の崩壊を招く甚大なリスクを常に伴うことになります。構成主体 国民国家、国内企業世界に関する見方主なガバナンスの主体国際秩序の達成国家間の相互依存・勢力均衡・競争と協調中心と周辺・多様な主体の競争と協調国際収支の焦点国際貿易、経常収支、中でも貿易収支価値の焦点原動力・指向性ナショナリズム国境ルール・文化の普遍化・統一化の範囲生産要素の流動性企業マネージメント代表的な経済活動分野農業、製造業リスク理論的枠組みと分業と協業の形自由貿易、比較優位原理、国際分業国家の集合各国政府国民の雇用創出・所得成長固い国内あるいは国際地域内における経済活動天然資源と最終財国内最適生産地と国内供給・価値連鎖と外国企業との提携小さい「グローバル経済」における経済競争のルール設定と規制という世界経済のガバナンスは、一義的には、国際経済組織、OECD、G7、G20、のような国際協調によってはじめて実現可能となります。国際収支は、国家を世界の基本的構成要素とみて、国内居住者と国外居住者の経済取引関係を体系的に記録したもので、これを構成する各収支の増減はその国、企業の活動状況を反映します。「国際経済」では国際収支の中でも財とサービスの取引を計上した貿易収支とサービス収支の増減に焦点が当てられます。他方、「グローバル経済」の観点からは、多国籍企業が、海外直接投資、ポートフォリオ投資によって上げた収益の大きさを表す第一次所得収支と海外移民労働による海外送金額を表す第二次所得収支の増減が重要となります。IMF、世界銀行、地域経済協力体、G7、G20、OECD国家・企業・金融機関・労働者・消費者・NGOs。加えてこれら各主体のグローバル・国際地域的なネットワーク多様な主体の関係の網(ネットワーク)、あるいはシステム第一次所得収支、直接投資、ポートフォリオ投資、資本収支、第二次所得収支各活動主体の利益・価値の最大化に焦点グローバリズムフラット、柔軟、高い浸透性世界的なルールと文化と価値の普遍化資源、労働、資本、技術等の生産要素と中間財と最終財世界大の最適生産地の選定とグローバル供給・価値連鎖の構築とマネージメント金融、ICTサービス、製造業大きい新国際分業、グローバル供給・価値連鎖(グローバル生産ネットワーク)参考文献猪俣哲史(2019) 『グローバル・バリューチェーン』日本経済新聞社村上泰亮(1992)『反古典の政治経済学』上下巻 中央公論Gretti,‥Gary(2018),‥Global‥Value‥Chains‥and‥Development,‥Cambridge‥Univ.‥Press表1 「国際経済」と「グローバル経済」3「グローバル経済」の特性「国際経済」と「グローバル経済」の特4「グローバル経済」における「新しい国際分業」の問題点「グローバル経済」の主な活動主体の一つはグローバル・ブランドを有する多国籍企業です。生産のすべての工程を、国境を越えて内部化するわけではなく、生産工程を分割化し、各国の企業に特定の工程を配分する生産工程間分業を築こうとします。プレ生産工程である新商品コンセプトの創造、デザイン、研究・調査活動等のサービス活動とポスト生産工程であるマーケティングとアフターサービス等のサービス活動という高付加価値活動は先進国企業が担い、他方商品の生産・有形活動である生産・組立て・加工といういわゆるモノづくりは相対的に低賃金の途上国の企業が担うことになります(猪俣2019)。途上国の企業は付加価値の低い生産工程にロックされてしまい、先進経済への上昇が難しくなるとともに、後発途上国からの追い上げの圧力にも晒されることになります。国際経済グローバル経済

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