田中菊雄『現代読書法』柁谷書店版と講談社学術文庫版大学、慶應義塾大学、中央大学、日本女子大学、日本大学における通信教育の開設が認定されます。この段階ではまだ社会通信教育として認定されていたわけですが、1950年3月14日付で、この5校に玉川大学を加えた6校が学校教育法に基づく正規の大学教育の課程として認可されます。ここで初めて、大学通信教育で卒業すれば通学課程と同じく学士号を取得できるようになったのです。こうして働きながら通信教育で学び、大学卒業資格を得るということが可能になり、戦後の勤労青年や戦争によって学業を諦めた多くの青年に迎えられて、大学通信教育は大きな反響を呼びました。池田大作の学び若き日の池田の学びの特徴をあえて挙げるとするならば、読書を通じた人格形成と言えるでしょう。池田大作『完本 若き日の読書』(第三文明社、2023年)などを見ても戸田と出会う前から読書家であったことが窺えますし、まさしく戸田大学は読書を通じた訓練の場でもありました。創価大学中央図書館に1997年に開設された池田文庫は池田の約7万冊にわたる蔵書の寄贈がもとになっています。このことから、池田は最初からあらゆる本を自由自在に読みこなしていたかのように想像してしまうかも知れません。しかし、池田が10代後半頃から付けている雑記帳を分析していくと、その想像を修正せざるを得ないことが分かります。前掲『完本 若き日の読書』には、雑記帳に書かれた本の抜き書きが「読書ノート」として収録されています。この「読書ノート」に記載されている本の抜き書きを初めのほうから並べてみると「一書の人を恐れよ」「書を読め、書に読まれるな」「今日の大学は、書籍の蒐集なり」といった読書に関する格言が続きます。順に、ラテン語の格言、出典は不明ですが孟子の「悉く書を信ずれば即ち書無きに如かず」の註釈としてよく用いられる言葉、トマス・カーライルの言葉となります。この格言を3つとも収録している本として該当するのが田中菊雄『現代読書法』(柁谷書店、1941年)という読書ガイド本です。1987年に出版された同書の講談社学術文庫版で解説を書いた紀田順一郎によれば、著者の体験に基づいて勉強の仕方が具体的に記されており、戦前や戦後にかけての読書論のほとんどが精神論や自己の読書回想などでお茶をにごす一方で、こうした傾向に飽き足らない独学者(自ら学ぼうという人々)に熱い支持を受けていたようです。当然、手にした読書ガイド本は他にもあるでしょうが、10代後半頃の池田が、戦後、自分の人生と向き合い、読書を始めるに当たって、何を読むか・どう読むか、について優れたガイドを必要としていたと考えるのはごく自然なことと考えられます。田中菊雄は同書の中で次のように述べています。「「今日の大学は書籍の蒐しゅう集しゅうなり」といつたカーライルの一言の意義は深い。今日は如何なる業務に従事しようと、如何なる山間僻地に居らうと、書籍によつて大学教育を受け得るのである。(中略)されば各人は自らの置かれた境遇に於て、職域に於て、迷ふことなく、自己に最善の大学教育を自らの手を以て自らのために獲得すべきである。而うして之を可能ならしむるものは実に書籍である。」(前掲『現代読書論』柁谷書店、1941年、24~25頁)。この言葉は現代の大学教育を考える上でも重要と言えるでしょう。<参考文献>田中菊雄『現代読書法』柁谷書店、1941年東洋商業五十年誌編纂委員会編『東洋商業五十年誌 附東洋商業卒業生名簿』東洋商業高等学校、1956年文部省編『学制百年史』帝国地方行政学会、1972年田中菊雄『現代読書法』講談社学術文庫、1987年日本大学百年史編纂委員会編『日本大学百年史』第3巻、日本大学、2002年塩原將行「創立者の大学構想についての一考察(1) 通信教育部開設構想とその沿革」(『創価教育研究』第5号、創価教育研究センター、2006年)池田大作『池田大作全集』第101巻、聖教新聞社、2011年池田大作『私の履歴書』聖教ワイド文庫、2016年「創価教育の源流」編纂委員会編『評伝戸田城聖』下巻、第三文明社、2021年塩原將行「池田大作が“戸田大学”で学んだこと」(『創価教育』第15号、2022年、池田大作記念創価教育研究所)池田大作『完本 若き日の読書』第三文明社、2023年伊藤貴雄・岩木勇作・川口雄一「池田大作における「若き日の読書」の予備的研究―「読書ノート」と創価大学池田文庫とをめぐって(1)」(『創価教育』第16号、池田大作記念創価教育研究所、2023年)池田大作記念創価教育研究所編「池田大作における「若き日の読書」の予備的研究―「読書ノート」と創価大学池田文庫とをめぐって(2)」(『創価教育』第18号、池田大作記念創価教育研究所、2025年)岩木勇作「戦後東京都大田区の青年文化運動 ―池田大作のベートーヴェン講義に着目して― 」(『創価教育』第18号、池田大作記念創価教育研究所、2025年)20
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